精神病にはそれぞれ各精神病に合わせた多種多様な治療法が存在します。
それは医学的アプローチや、臨床心理学的アプローチなどが挙げられ、今も日々新しい薬や方法が生み出されています。
本記事では、双極性障害(躁うつ病)の治療法に焦点を絞り、一体世の中にどのような治療法が存在するのか、また、私まつら自身はどのような双極性障害の治療を行なってきたのかをご紹介いたします。
目次
双極性障害(躁鬱病)の基本治療
双極性障害の治療において、一番よく行われる治療が薬物療法です。
特に薬の中でも気分安定薬は必ず飲まなければいけないとされています。
また、薬物療法に加えて、心理社会的療法を用いることもあります。
次に、それらが一体どのような治療法なのかについて詳しく解説していきます。
薬物療法は3種類の薬を使った治療
双極性障害では、基本的に「気分安定薬」「抗精神病薬」「睡眠導入剤」という3種類の薬を使用して治療を行なっていきます。
気分安定薬とは?
「気分安定薬」とは、双極性障害治療の基本となる薬で、必ず飲まなければならないものです。
気分の波を小さくして、安定させてくれる効果があります。
主に躁状態を鎮めてくれ、躁状態に陥らないように予防してくれる役割を果たすのがこの薬です。
予防薬なので体調が良く寛解状態であっても基本的には毎日飲み続けなければなりません。
ここが双極性障害の治療の難しいところで、体調が良くなったからといって薬をやめて再発してしまう人がいます。
確かに双極性障害であっても四六時中いつも双極性障害の症状が出ているわけではなく、躁状態やうつ状態がない時期には普通の人と同じように生活することができますし、仕事だって普通にできます。
特に双極性障害に始めてかかったという方は、症状が落ち着くと「治った」と勘違いしてしまい、薬を飲むことをやめてしまいがちです。
現に私もそのやめた一人でした。
しかし、双極性障害はいつ発症するかが分からない他、躁状態になってしまった場合には自分で自分をうまく制御することが難しくなります。
つまり躁状態が落ち着いてからも、気分安定薬を飲み続け、躁状態に再度なってしまわないように予防していくことも治療として大切だということなのです。
代表的な気分安定薬として、リーマスやデパケンやラミクタールなどがあります。
最もよく使われる気分安定薬はリーマスと言われていて、双極性障害にかかった場合ほとんどリーマスが処方されます。
リーマスが体に合わない場合に他のものを使うような形です。
薬物治療を続けていくコツは、慣れとしか言えません。
薬を毎日飲んでいるとだんだん毎日飲むことに慣れ、習慣化し、やがて自然と薬を飲むようになってきます。
最初は少し違和感があるかもしれませんが、飲み始めの頃は少し抵抗感があると思いますが、治療のためだと思って意識的に薬を飲むようにすると良いと思います。
つい飲み忘れてしまう事がありそうだと言う方は、親のような第三者のサポートが受けられるのであれば、毎日薬を飲んだかどうかのリマインドをお願いすると良いかもしれません。
リーマスとは?
リーマスは気分安定薬の商品名であり、主成分はリチウムです。
そうです。リチウム電池のリチウムです。
この薬のいいところはうつ状態になりにくいところです。
気分を落ち着かせて、躁状態の期間を短くし、躁状態になる回数を減らしてくれます。
副作用としては、吐き気、震え、発熱、下痢などがあります。
気をつけなければならないのが、血中濃度です。
リーマスは有能な薬なのですが、飲みすぎたりして、血液中のリチウムの濃度が高くなってしまうと、リチウム中毒を起こしてしまい、最悪死に至ってしまいます。
逆に、血中濃度が低すぎると気分を落ち着かせる効果がうまく発揮出ません。
このバランスが難しいのです。
そのため、2〜3ヶ月に一度採血をして、血中濃度を測りどれくらいの分量のリーマスを飲めば良いか適量を決めていく必要があります。
また、脱水状態になるとリチウムの血中濃度が上がるので要注意です。
さらには、鎮痛剤の1種であるロキソニンなどは、腎臓の機能を弱め、リチウムの代謝が悪くなってしまうために、一緒に飲むことはできないので注意しましょう。
これはリーマスが処方される際にお医者様から説明があるため安心してください
抗精神病薬
抗精神病薬は不穏、躁状態が目立つなどの興奮状態を穏やかにしてくれる作用がある薬です。
処方される抗精神病薬の代表的なものとしては、エビリファイ、ロドピン、リスパダールなどがあります。
躁状態を強めに抑える効果があるので、中には飲むのを嫌がる人もいるそうです。
しかし、躁状態になって迷惑をかけないためと考えれば、飲もうかなという気持ちになれるのではないでしょうか。
少なくとも私はそうやって自分に言い聞かせて飲みました。
睡眠導入剤
双極性障害の症状の一つに不眠があります。
目が冴えてしまい寝付けない、朝早く目が覚めてしまうなどの不眠症状の改善のために一時的に使用します。
精神病治療において、十分な睡眠は再発予防に重要です。
処方される睡眠導入剤として代表的なものはサイレース、マイスリー、ベルソムラなどがあります。
睡眠導入剤を飲むと、眠寝付きやすくなりますが、持ち越し効果といって、翌日の日中に眠気やふらつきが残ってしまうことがあるので注意しておく必要があります。
また、これは睡眠導入剤を処方される際に医師から厳重に忠告される事ですが、飲んだ後に車の運転は避けましょう。
判断能力などが通常より落ちてしまっているため、車で重大な事故をおこしてしまう可能性が高くなります。大変危険です。
心理社会的療法
心理社会療法とは、社会生活を送っていく上での適切なコミュニケーション能力や、環境適応能力などを身につけていく治療法です。
世の中には実に様々な心理社会的療法が存在しますが、ここでは主に双極性障害の治療によく使われる「認知療法」「心理教育」「通電療法」「家族療法」「精神分析療法」「クライエント中心療法」についてそれぞれ詳しくご紹介いたします。
認知療法
認知療法は主にうつ状態の改善のために行われることが多い治療法です。
通常、自分の感情は自分が出来事をどう捉えるのかで変わってきます。
例えば、次の昇進試験に絶対に合格しなければならないと思って挑んだ場合、仮に不合格になってしまった時、「自分にはもう生きている価値がない、終わりだ」などと考えてしまうかもしれません。
しかし、昇進試験に合格できたらいいなぁと思って受けて不合格だった場合、「また次にトライすればいいや」といった考えも浮かぶでしょう。
このように多くのことは捉え方次第で変わってきます。
しかし、精神障がいになると、どうしても前者のように極端に偏った捉え方をしてしまうことが多くなります。
認知療法は、そんな偏った物事の捉え方を一般的な捉え方に戻していく治療法です。
心理教育
精神病の治療は医師に頼りきりではよくなりません。
患者自身が自分の疾患について受け入れ、自分でも病気をコントロールしていく努力をすることが大切です。
特に病気になったばかりの頃は、「自分が精神病だなんて・・・」という気持ちが強く、今後薬を飲んでいくことへの強烈な不安や苦痛を感じます。
プライドをズタズタにされる感覚というか、屈辱的な感覚になります。
しかし、精神病になってしまったのであれば仕方がありません。それに対して不安や苦痛を抱き続けるよりも、一旦それをきちんと受け止めて、いかに治療していくかを考える事の方が重要です。
心理教育では、双極性障害とはどのような病気なのか、どう対応していけばいいのか、自分自身の病気について学び、うまく付き合えば普通に日常を送れることを理解し、希望を持って生きていけるようになるための治療法です。
通電療法
通電療法は、その名の通り頭皮に電極パットをつけ脳に電気を走らせる治療法です。
これだけ聞くと少し抵抗感がありますが、通電療法はうつ病にとても効き、双極性障害にも有効である療法として知られています。
基本的には全身麻酔をして行うことになりますので、患者さんの合意のもと実施されます。
通電療法が行われるのは、自殺を試みたり実際に暴力をふるったりする患者や、重症のうつ病か重症の躁病、精神病の患者など、また薬物療法では効果が得られない場合です。
躁状態にある患者さん本人の同意が難しいことから、通常はあまり行われない治療法です。
本当に精神障がいの症状がひどくなった時の治療法だと思っておくと良いと思います。
躁状態にある患者さんに治療への同意を得ることの難しさがあります。
副作用として、実施後に記憶力が一時的に低下することがあります。
これはあくまで参考情報ですが、僕は双極性障害1型という比較的躁状態が強く現れる精神障害を持っていますし、取り押さえられて強制的に病院に入院させられた事もありますが、未だ一度も通電療法を行なったことはありません。
家族療法
双極性障害の治療を行っていくにあたり、家族の理解とサポートはとても大切です。
躁状態になるとお金を使ってしまったり、攻撃的になってしまったりしてしまいますし、一方で、うつ状態になると自分の殻に閉じこもってしまいます。
双極性障害では躁状態、うつ状態という両側面で家族に心配や迷惑をかけてしまいます。
特に躁状態では家族に大きな負担を与えてしまい、たとえそれが病気によるものだとしても、家族はマイナスな感情を抱いてしまいがちです。
その感情が患者に伝わり、さらなるストレスを招き、症状が悪化するという悪循環に陥ってしまう可能性があります。
このような負の連鎖を断つために家族を対象に行われるのが家族療法です。
主に家族が双極性障害という身内の病気を受け入れ、理解を深め、協力して病気の治療に取り組めるようなサポートを行います。
僕の場合には、父親の理解とサポートがあってこそ、これまで双極性障害の治療に積極的に取り組めていたと今では感じます。
家族からの理解、サポートは精神障がいの治療にあたり、非常に重要なポイントだと思います。
精神分析療法
精神分析療法は、20世紀の三大療法の1つで、ジークムンドフロイトが提唱しました。
問題がおきる最大の原因が「無意識に抑圧したものや不適切な防衛機制の固定化」にあるという考えをベースにした治療法です。
フロイトは自由連想法といって、カウチにクライエントを寝かせて、クライエントがまどろみの中、頭に浮かんだものをどんどん言ってもらい、それを実施者が解釈して、洞察を促していくというやり方をとりました。
無意識抑圧されたものが意識に上がってくると不適応は治ると考えたのです。
主に、精神分析療法は神経症やヒステリーや心身症など心因性精神病に有効とされます。
一方で、双極性障害は内因性精神病で、原因は不明のため、このような精神分析療法はあまり効果がないとされています。
クライエント中心療法
クライエント中心療法は20世紀の三大療法の1つで、カールロジャースが提唱しました。
「人間は本来、自分自身の力で不適応を直していけるという自己実現能力を備えている」という考えの元に確立された治療法です。
そういった人間本来の事後実現能力をを促すようにカウンセラーが無条件の肯定的配慮、共感的理解、自己一致の姿勢に立ちながら接すればほとんどの問題は治ると考えました。
問題の最大の原因は「人間の現実自己と理想自己にズレがあること」にあるとし、それを先ほどのような接し方を活用したカウンセリングを行うことで直していくという治療法です。
しかし、クライエント中心療法は、双極性障害は内因性の精神病であるが故に、現実自己や理想自己とは関係ないので効果がないとされています。
双極性障害I型のまつらが実際に行った治療法とは?
ここまで一般的に双極性障害(躁うつ病)の治療に使われる治療法をご紹介してきましたが、実際にはこのすべてを私まつらが行なってきた訳ではありません。
私は双極性障害I型という比較的症状の重い双極性障害を抱えていますが、主にこれまで薬物療法と心理教育を中心に行ってきました。
薬物療法は、リーマスを基本的に毎日飲み、躁状態になってしまった際にはロドピンやジプレキサも用いました。
体調を見て、寛解状態になったら基本リーマスのみを毎日飲み続けます。
リーマスの副作用を止めるためにアキネトンを飲んだり、睡眠導入剤でベルソムラを飲んだりすることもあります。
こういった薬物療法を5年以上も続けてきたため、今では毎日薬を飲む生活ももうすっかり慣れて、夜になると体が自動的に薬を飲まなきゃと動き出すようになりました。(たまに忘れますが・・・^^;)
また、薬物療法と合わせて心理教育も行いました。
職場に復帰するための支援施設であるリワークに通っていた際や、入院中にスタッフの人から話を聞いたりしながら、自分の病気について深く学びました。
何より自分で本やホームページを見て勉強したという側面が大きいかもしれません。
また、主治医の先生に気になることはどんどん質問して学んでいくような形をとっていました。
しかしやはり最初は「自分が精神病になるなんて・・・」というショックの方が大きく、なかなか自分の病気を受け入れることができませんでしたが、一度自分の病気を受け入れてからは積極的に自分の病気について学び、治療に積極的になっていきました。
このように薬物療法や心理教育により、年々少しずつ症状がよくなってきています。
今思えば、治療を行う上で何より大切なのが自分で自分の病気を受け入れられるようになることだと思います。
僕はこれがなかなかできずに苦労した経験があります。
こればっかりは、何回か症状が悪化していく中で少しづつ受け入れられるようになっていくしかないのではないかと思っています。
双極性障害治療は周りの理解とサポートが何より大切!
双極性障害は精神障がいの中でも再発しやすい病気です。
薬を飲まなければ90%が再発すると言われているし、薬を飲んでいても再発することがあります。
そして再発するたびごとに社会的信頼を失っていく可能性があります。
うつ状態の時は動けませんから、社会的に迷惑はかけないのですが、躁状態のときに動き回って迷惑をかけてしまうことになります。
厄介なのが、躁状態は自分一人では気づきにくいのです。
気分が良かったり、頭の回転が早かったりということで、自分から薬を飲もうとすることはなかなかありません。
中でも、初めて躁状態になった時は、これが本来の自分だと思うし、自分で気づくことができる人は、僕はいないんじゃないかと思います。
何回も躁を経験していくと、自分は躁になっていると気づくことが出来るようになっていきますが、それでも、周りの方からのサポートは重要だと思います。
僕の場合は、父親がずっと僕を監視をしてくれています。
週に一回病院に一緒に行って、主治医の先生とお話して、僕の様子を伝えてくれます。
また、僕の友人の多くは、僕が双極性障害だということを知っています。
僕が躁状態になっているところが発見されると、友達の方から父親に連絡が入ることもあります。
特に親友の人は、いつも僕が躁になると父親に連絡してくれたり、他の友人に説明をしてくれたりします。
このように自分ではコントロールできない部分をサポートしてくれる存在がいることに、とても感謝しています。
僕が今とっている対策は、父親と、しっかり知識をつけてくれた友人のいうことは聴くということです。
こんなに躁を経験しているけれど、でもまだ自分が躁状態の時に正確な判断を下せる自信がありません。
僕の病気のことをよく知らない人から何か言われた時に、何も知らないくせになんでこの人はこんなにしつこく言ってくるのだろうかといらだってしまいそうです。
普段は滅多にイライラしない僕ですが躁状態ではイライラしてしまいやすくなります。
そこで、今の時点で、この人とこの人は双極性障害の知識をつけてくれたので、言うことは正しいと決めておくことにしました。
そうすることで、躁になった時、この人が言っているなら正しいだろうということをきけると思います。
こういう対策ができるのも、家族や友人がいてくれるからです。ありがたいことだと思います。
このように事前に自分にあった対策を考えておくといいと思います。
双極性障害は、発症してしまった場合に社会的に大きく信用を失ってしまう可能性が多い病気です。
そのため、自分一人で治療しようと思ってもなかなかできません。
自分だけではなく家族など周りの人の理解、サポートが何より大切です。
こんなことを私の口から言うのは気が引けてしまいますが、ぜひ、みなさんの身内や友人に双極性障害に悩んでいる方がいたら、本記事を参考にサポートをしてあげてください。
きっと薬物治療よりも心理教育よりも、ここにあげたすべての治療法の中で一番それが大切であり、有効な治療法だと僕は感じています。